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東京高等裁判所 平成4年(ネ)244号 判決

控訴人(被告) 野村証券株式会社

右代表者代表取締役 酒巻英雄

右訴訟代理人弁護士 小野道久

被控訴人(原告) 渡辺憲三

右訴訟代理人弁護士 佐藤恭一

同 米丸和實

同 末政憲一

同 叶幸夫

同 水澤恒男

主文

一、当審における訴えの変更に基づき、原判決主文第一項及び第二項を次のとおり変更する。

1. 控訴人は、被控訴人に対し、別紙有価証券目録一記載の株式会社丹青社株式一〇〇〇株の普通株券及び同目録三記載のニュージャーマニーファンド一〇〇〇株の証券を引き渡せ。

2. 控訴人は、被控訴人に対し、別紙有価証券目録一記載の株式会社丹青社株式二〇〇〇株及び同目録二記載のティーエイチケー株式会社(THK)株式一〇〇〇株と同銘柄、同数量の普通株券を引き渡せ。

3. 右2の株券引渡しの強制執行が目的を達することができないときは、控訴人は、被控訴人に対し、強制執行不能の各株式一株につき、別紙市場価格目録記載金額相当の金員及びこれに対する平成五年一月二一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二、控訴人のその余の控訴を棄却する。

三、控訴費用は、第一、二審を通じ、控訴人の負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、仮に執行することが出来る。

事実

一、当事者の求めた裁判

(控訴人)

1. 原判決を取り消す。

2. 被控訴人の請求(訴え変更後の請求を含む。)をいずれも棄却する。

(被控訴人)

1. 原判決主文第三項の請求に係る控訴人の控訴を棄却する。

2. 被控訴人の当審における請求(原判決主文第一、二項の請求に係る訴えの変更)

(一)  主位的請求

(1) 主文一1と同旨

(2) 主文一2と同旨

(3) 主文一3と同旨

(4) 仮執行宣言

(二)  予備的請求(前(一)(2)、(3)の請求について)

(1) 控訴人は、被控訴人に対し、金一九〇一万及びこれに対する平成三年一月一七日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

(2) 仮執行宣言

二、当事者の主張

1. 被控訴人の請求原因

(一)  主位的請求

(1)  控訴人は、有価証券の売買等及び有価証券市場における売買取引委託の媒介、取次、代理等を営む会社である。

(2)  被控訴人は、平成元年一一月ころから、控訴人の松戸支店で株式の売買の取次を依頼し、その購入した株券等や現金の一時保管を控訴人に委託してきた。

(3)  被控訴人は、控訴人に対し、平成二年一〇月五日到達の書面で、株券等及び現金の寄託契約を解除し、同契約に基づき控訴人が保管していた物の即時返還を求めた。

(4)  控訴人は、右寄託契約の解消された日に、別紙有価証券目録記載の株券等(以下「本件株券等」という。)及び現金四〇三万四一〇七円(以下「本件現金」という。)を保管していた。

(5)  控訴人は、本件株券等のうち、ティーエイチケー株式会社(以下「THK」という。)株式一〇〇〇株及び株式会社丹青社(以下「丹青社」という。)株式二〇〇〇株をその後売却したため、右株券を所有していないが、寄託した株券等は高度の流通性と代替性を有し、被控訴人と控訴人との間には、当該株券等そのものの返還が不能になったときは、当該株券等と同銘柄、同数量の他の株券等で返還すれば足りる旨の黙示の合意がある。

(6)  本件株券等のうち売却されたTHK株式一〇〇〇株、丹青社株式二〇〇〇株の口頭弁論終結時の市場価格(平成五年一月一八日の東京証券取引所終値)は別紙市場価格目録記載のとおり四一二万円である。

(7)  よって、被控訴人は、控訴人に対し、寄託契約の解消に伴い、本件株券等のうち、控訴人が現在保管中の丹青社株式一〇〇〇株の株券、ニュージャーマニーファンド一〇〇〇株の証券の引渡し、本件株券等のうち、売却ずみのTHK株式一〇〇〇株、丹青社株式二〇〇〇株につき、これと同銘柄、同数量の株券の引渡し、右売却ずみの株券と同銘柄、同数量の株券の強制執行が目的を達することができないときは、口頭弁論終結時における別紙市場価格目録記載のとおりの右株式の市場価格による金員である四一二万円及びこれに対する口頭弁論終結の日の翌日である平成五年一月二一日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払い並びに金四〇三万四一〇七円及びこれに対する前記返還の日の翌日である平成二年一〇月六日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(二)  予備的請求

(8) (1)ないし(4)は、主位的請求に同じ。

(9) 控訴人は、被控訴人から寄託を受けた本件株券等のうち、THK株式一〇〇〇株、丹青社株式二〇〇〇株を売却したから、右株券の返還義務を覆行することは不能になった。

そこで、被控訴人は、控訴人に対し、損害賠償として、返還債務の履行不能時(右株券が売却された平成三年一月一六日)における処分価格一九〇一万円(THK株式について九九九万円、丹青社株式について九〇二万円)を支払う義務がある。

(10) よって、被控訴人は、控訴人に対し、予備的に、前記株券の返還に代えて損害賠償金として一九〇一万円及びこれに対する平成三年一月一七日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2. 請求原因の認否

(一)  請求原因(1)ないし(4)事実を認める。同(5)は争う。同(6)(9)の株式の市場価格は不知。

3. 控訴人の抗弁

(一)  被控訴人は、平成二年八月三一日、控訴人に対し、帝国通信工業株式会社(以下「帝通工」という。)の株式二万株の信用取引による買付けを依頼し、右信用取引の保証金として本件株券等のうち丹青社株式三〇〇〇株、本件現金のうち三三四万円を控訴人に差し入れたが、その後、被控訴人は、追加保証金を差し入れなかったので、控訴人は、平成三年一月一六日、前記帝通工の株式二万株、本件株券等のうち、THK株式一〇〇〇株を九七七万五二二八円で、丹青社株式二〇〇〇株を八八二万四八三一円で売却して、右処分代金等をもって右信用取引による買付けの決済に充て、決済後の残金七七万四一六八円を保管している。

右株式の売却は、大阪証券取引所受託契約準則によりなされたのであるから、控訴人は右売却した株券を返還する義務はない。

(二)  丹青社株式一〇〇〇株の株券及びニュージャーマニーファンド一〇〇〇株の証券については、いずれも控訴人作成の預り証が発行されているところ、右株券・証券の被控訴人への引渡しは、右預り証の交付と引換えになされるべきである。

(三)  本件株券等のうち、ニュージャーマニーファンドの証券については、被控訴人は、証券の返還を受けようとするときは、保管替えの手続に要する費用を支払うことを約しているから、右費用の支払いを受けるまで、右証券の引渡しを拒絶する。右費用の内容は、右証券はアメリカ合衆国ニュージャージー州にある野村インターナショナルトラストカンパニーに保管されているところ、これを引き出し、控訴人会社まで郵送するに要する取扱手数料、保険料、郵送料である。

4. 抗弁の認否

(一)  抗弁(一)の事実のうち、THK株式一〇〇〇株及び丹青社株式二〇〇〇株が売却されたことは認め、その余は否認する。被控訴人は、控訴人に対し、帝通工株式の買付け依頼をしたことはない。

(二)  抗弁(二)、(三)は争う。本件のように寄託者が明確なときは、預り証との引換えは不要であるし、ニュージャーマニー関係の費用の支払いについての主張は、少なくとも、その額が具体的に主張されていないので失当である。

理由

一、請求原因(1)ないし(4)の事実は、当事者間に争いがない。右事実によれば、控訴人は、被控訴人から本件株券等及び本件現金の保管の委託を受けていたものである。

二、右争いがない事実と〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

1. 被控訴人は、不動産賃貸業を営む株式会社清尋の役員をしている者である。

被控訴人は、平成元年一月ころから、控訴人以外の証券会社で株式の売買を始めたが、同年一一月ころから控訴人松戸支店(以下「松戸支店」という。)に株式の売買を依頼し、購入した株券等の保管、株式の売却により取得した現金の一時保管を控訴人に委託していた。松戸支店における被控訴人の担当者は、賀来雄司(以下「賀来」という。)であった。

被控訴人は、平成二年八月二日、信用取引の口座を開設したが、株式の信用取引の経験はなかった。

2. 被控訴人は、平成二年七月ころ、日本証券金融株式会社(以下「日本証券金融」という。)から二〇〇〇万円の融資を受けて、松戸支店でTHKの株一〇〇〇株を購入したが、日本証券金融から求められた担保不足を解消するために現金三〇〇万円余りを必要としたところから、控訴人が一時保管していた本件現金四〇三万四一〇七円をこれに当てようとして、同年八月二七日、控訴人所定の用紙を使用して本件現金の被控訴人の銀行口座への送金を依頼し、同時に、控訴人保管中の丹青社の株式一〇〇〇株(被控訴人が平成二年八月九日に松戸支店で購入したもの)の名義書換えを依頼する書面を発送し、翌二八日ころ、右各書面は松戸支店に到達した。右株式の名義書換手続は、同年九月下旬になされた。

3. 松戸支店では、平成二年八月三〇日午後に控訴人本社からの連絡により、平成二年八月三一日約定で、帝通工の株式五万株をクロス商い売買の方法(控訴人では、ブロック・オファーの語も用いた。)で顧客に提供することになった。賀来は、同年八月三〇日午後九時ころ、被控訴人に電話で、「いい話があるので、明日の朝、連絡がとれるようにして欲しい。」趣旨を告げた。翌八月三一日午前八時三〇分ころ、賀来は、被控訴人に電話をしたが、右電話の話の中で「帝通工の株式について一株一六七〇円でお分けする。」と話し、その後、「一〇〇万円位儲かる。」旨を電話で告げた。

4. 賀来は、被控訴人が信用取引により、帝通工株式二万株を買い付けたものとして処理し、被控訴人は、控訴人が送付した、被控訴人が同年八月三一日に帝通工の株式二万株を一株一六七〇円(合計三三四〇万円)で信用取引で買った旨の信用取引報告書を平成二年九月四日ころに、また「精算のお願い」と題する書面(控訴人の保管中の本件株券等及び現金のうち、現金三三四万円及び丹青社株式三〇〇〇株を担保として預かること、右株式の預り証の引渡しを求めるとの記載内容である。)を翌九月五日ころにそれぞれ受領した。被控訴人は、右各書面について、賀来など松戸支店の者に直ちにその内容について確かめるなどのことはしなかった。

5. 被控訴人は、平成二年九月六日、松戸支店に行き、賀来に対し先に送金を依頼した本件現金の払戻しを求めたが、右現金のうち信用取引の担保になっている三三四万円については払戻しを拒否された。被控訴人は、当日、日本証券金融の追加担保差し入れのために現金が必要なところから、控訴人が保管中のアオキインターナショナル(以下「アオキ」という。)の株式の売却を控訴人に依頼した。

被控訴人の求めにより、平成二年九月一三日、上司の松戸支店営業課長代理斎藤亘と賀来は被控訴人方を訪ね、さらに、同月一八日、上司の同支店中井義康営業課長が被控訴人方を訪れ、本件に関し被控訴人と交渉して問題解決に当たった。

三、控訴人は、平成二年八月三一日、前記認定の被控訴人と賀来との電話のやりとりにおいて、被控訴人は、帝通工株式二万株の信用取引による買付けを控訴人に依頼したと主張し、乙一号証の記載、証言賀来雄司の証言中には右主張に沿う部分があるので検討する。被控訴人は、控訴人の右主張を否定しており、右の点について、被控訴人本人尋問及び甲七号証において、「八月三〇日午後九時ころ、賀来は被控訴人に電話で『いい話があるので、明日の朝、必ず連絡が取れるようにして欲しい。五万株の手持ちが支店にある。三万株は他の客に持って貰った。』と告げた。」旨、「八月三一日午前八時三〇分ころ、賀来から電話で『帝通工の株を前日の終値よりも一〇円安く一六七〇円でお分けできる。』といわれた。被控訴人が質問する間もなく、電話は切られた。」旨、「同日午後一時三〇分ころ、賀来から、『今一〇〇万円位儲かっています。』との電話があった。電話の時間は、数秒か数十秒程度であった。」旨述べている。右電話の内容からしても、被控訴人としては、帝通工の株式の売買が問題になっていることは認識可能であるから、電話の趣旨が不明確であるとすれば、直ちに賀来に詳細を確認するなどの対応措置をとるべきであるのに右措置を取っていないこと、同様に前記信用取引報告書等の送付をうけながら控訴人にその内容を確認する措置を直ちには取っていないこと、被控訴人は、右対応措置を電話などにより即時に取らなかった理由について、被控訴人が従来購入した株式価格の下落に伴う評価損を埋め合わせるために、賀来が好意的な措置を取っているものと考えたと述べていること、被控訴人は、株式の取引経験が相当にあることを考えると、被控訴人は、前記帝通工の株式の信用取引による買い付けを承認していたのではないかとの疑いがないわけではない。しかし、前記事実に表れている次の諸点にも留意しなければならない。

1. 被控訴人は、日本証券金融の追加担保に供するため、控訴人が本件信用取引が成立したとする平成二年八月三一日の直前である同月二七日に控訴人に委託した本件現金の払戻しを求めていたものであり、右現金を本件信用取引の保証金に供する場合には、これを右追加担保に供することができなくなる。この点に関し、賀来は、被控訴人から平成二年八月末に本件現金についての振込送金依頼があったことを認めた上、一方では(乙一号証、証人賀来雄司の証言)、本件帝通工の株式の信用取引による買付委託により右送金依頼はなくなったものと思い送金しなかったと述べ、他方では(同証人の証言)、右送金しなかったのは単純なミスであることを認めて、右記述と矛盾したことを述べており、果たして賀来が真に被控訴人から右買付委託を受けていたと考えていたかに疑問を生じさせる。ちなみに、右不送金がミスであったことは賀来の上司である中井義康課長、斎藤亘課長代理も認めているところである(甲三〇号証、乙一二号証、斎藤亘証言)。

控訴人は、被控訴人が、アオキの株式の売却を控訴人に依頼したのは、被控訴人が帝通工の株式の買付けを了承したことを推認させると主張するが、被控訴人がアオキの株式の売却を依頼したのは、控訴人が、被控訴人の求めた本件現金の返還を拒否したため、アオキの株式を換金したものであるから、控訴人の主張は採り難い。

2. 被控訴人は、従来株式の信用取引の経験はなく、信用取引の危険性を認識している(被控訴人の尋問の結果)うえ、本件帝通工の株式の信用取引は、三三四〇万円と多額であるのに、被控訴人が、右取引に当たり、賀来から詳細な説明を受けるなどして、帝通工の株価の動き、提供するべき保証金の内容、クロスオファーによる買付けなどについて検討した形跡は認められない。

3. 被控訴人は、平成二年九月六日、松戸支店に赴き、本件現金の返還を請求している。

4. 賀来及びその上司らは、被控訴人の求めに応じて、二回にわたり被控訴人方を訪問し、被控訴人に対応している。詳言すると、甲三〇号証、乙一二号証、証人斎藤亘の証言、被控訴人本人尋問の結果(当審)によれば、九月一三日と同月一八日に、被控訴人が、その自宅で本件信用取引による買付委託を否定して、賀来の上司である斎藤亘課長代理、中井義康課長と相当時間にわたり交渉していることが認められる。控訴人は、賀来及びその上司の被控訴人方訪問は、クロスオファーによる売買方法の説明のためと主張するが、右売買方法だけのためにわざわざ二回にわたり賀来らが被控訴人を訪問して話し合うというのは不自然であり、右各訪問は、前記売買方法の説明のほかに本件信用取引に関する被控訴人の不満の解決に上司として対応する意図もあったと認めるほかない。証人賀来雄司、同斎藤亘、同中井義康の各証言中、右認定に反する部分は信用し難い。

右1から4の事実に照らすと、被控訴人が、帝通工の株式二万株の信用取引による買付けを控訴人に依頼したと考えるには不自然不合理な点が残ることとなり、これを肯定する証人賀来雄司の証言及び乙一、一〇号証の各記載は採用し難く、その他これを認めるに足りる証拠はない。

四、なお、控訴人が保管中の丹青社株式一〇〇〇株の株券及びニュージャーマニーファンド一〇〇〇株の証券について、控訴人作成の預り証が発行されているとしても、右預り証は免責証券の性質を有するものと解され、控訴人が被控訴人の任意の請求に応じる場合はともかくとして、判決による強制執行として控訴人が右有価証券の引渡しをさせられた場合には、将来、再度被控訴人から右預り証を提示されて右有価証券の引渡しを求められ、控訴人が引渡しずみであることを立証できずに困惑するといった事態が発生することは考えられないから、判決主文において、右預り証と引換えに右有価証券の引渡しを命じる必要はない。

また、ニュージャーマニーファンドの証券について、被控訴人がその返還を受ける際には保管費用を支払う旨約していたとしても、支払うべき保管費用の具体的な額について全く主張立証のない本件においては、判決主文においてその点について明らかにすることはできない。

五、そうすると、控訴人は、被控訴人に対し、本件株券等及び本件現金を返還する義務があることになるが、本件株券等のうち、丹青社株券二〇〇〇株、THK株券一〇〇〇株については、控訴人が所持しないものとして被控訴人は引渡しを求めていないから、結局、控訴人は、被控訴人に対し、別紙有価証券目録一記載の丹青社株式一〇〇〇株の株券、同目録三記載のニュージャーマニーファンド一〇〇〇株の証券の引渡し義務があることになる。次に、本件株券等のうち、控訴人が売却したために所持していない丹青社株券二〇〇〇株、THK株券一〇〇〇株は、高度の流通性と代替性とを有するものであるから、その性質上、被控訴人と控訴人との間には、当該株券等そのものの返還が不能になったときは、特段の事情がない限り、当該株券等と同銘柄、同数量の他の株券等で返還すれば足りるとの黙示の合意があるものと解するのが相当であり、特段の事情は認められないから、控訴人は、被控訴人に対し、別紙目録記載の丹青社株式二〇〇〇株、THK株式一〇〇〇株と同銘柄、同数量の株券を引き渡す義務がある。被控訴人は、右株券引渡しの強制執行が目的を達することができないときは、口頭弁論終結時における右株券の市場価格による金員を支払う義務があるところ、口頭弁論終結時である平成五年一月二〇日における右株式の市場価格(平成五年一月一八日の東京証券取引所の終値)は、別紙市場価格目録のとおり、丹青社株式は一株当たり一一一〇円、THK株式は一株当たり一九〇〇円である(甲三九号証の一、二により認める。)から、被控訴人は、右株券の強制執行が目的を達しないときは、丹青社株式については、一株式につき一一一〇円、THK株式については、一株式につき一九〇〇円及びこれに対する口頭弁論終結の日の翌日である平成五年一月二一日から支払いずみまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。また、控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人が委託した現金四〇三万四一〇七円及びこれに対する弁済期の翌日である平成二年一〇月六日から支払いずみまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。すなわち、被控訴人の当審における訴え変更後の主位的請求はいずれも理由がある。

六、よって、当審における訴えの変更に基づき、原判決主文第一項及び第二項を主文第一項のとおり変更し、控訴人のその余の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤滋夫 裁判官 宗方武 水谷正俊)

〈以下省略〉

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